【20周年企画】 認定NPO法人ReBit
「信頼の貯金をいただいたからこそ・・・」

 

2016年に協働を終えた認定NPO法人ReBit代表の藥師さんに、協働に至るまでの経緯から、協働の様子について話を伺った。

▼インタビュー(取材:2023年2月10日(金))

 

(Q)協働は2014年からですが、SVPに応募しようと思ったきっかけ、理由は何でしたか?

(薬師)2009年からずっと学生団体でやっていて、2014年にNPO法人になったのですが、NPO法人としてどう運営し、どうやってソーシャルインパクトを出していくかわからない時に、すがるような気持ちでSVP東京と、ETIC.の社会起業塾に応募させていただいたという経緯があります。

 

(Q)NPO法人になったばかりだったということですが、自分たちの団体はどういうステージにあると思っていましたか?

(薬師)学生サークルからNPO法人になるタイミングで、フルタイムで働いている職員は私も含めて誰もいない状況で、社会人1年目の2人ががんばります、という団体でした。それまでに出張授業の実績はありましたが、組織としての運営経験や、社会課題に対してアプローチする戦略もない状況で、「どアーリー」という感じだったと思います。(笑)

 

(Q)選考は半年がかりですが、選考のプロセスで覚えていることはありますか?

(薬師)いろいろありますが、一番最初に「パワーポイントのスライドの下にちゃんと番号をつけなさい」と言われたのを覚えています。「ブレットって何ですか?」と僕、最初に質問したのも覚えています。それぐらい何も知らなくて、「フォントは合わせなさい」とか、そういうことから全部教えてもらった感じです。ただただ想いはあるけれど他は何もない若者に、プロフェッショナルな方が教えてくださったことを今でも思い出します。

 

(Q)協働が実際に始まって感じたことは何がありますか?

(薬師)いくつか学んだことがあって、ストーリーテリングの力はすごく重要だと思いました。LGBTQは当時まだなかなか知られていない話題で、「そんな課題があるんだ」「それって重要なんだね」と知っていただくためには、ストーリーテリングがとても大事で。その後のロジックも大事なのですが、結局、心をつかむかどうかは、最初の1分なんだということを学びました。そのプレゼンテーションを一緒に作っていただいたのは今でもすごく覚えているし、冒頭のストーリーテリング次第で、がらっと空気が変わる感覚はすごく覚えていますね。

そして、その後の協働で、LGBTQのことや課題についてまったく知らない人と、どう協働するのかを学ばせていただいたと思います。なぜLGBTQの課題が子どもたちにあって、それはどういう状況なのか、社会がどう変わればいいのか、それまではLGBTQの若者が中心になってやっていたので、言わずもがなでみんなわかっていて、どのような困難があるかとか、あえて説明しなくても経験があるからみんな分かっていましたけど、それをあえて明文化してわかるように伝えて、なるほど、と理解してもらう、その経験ができたのは非常に重要でした。それによって、この人と一緒にやりたいと思う時に、課題の共有がとても早くなりました。

 

(Q)協働1年目の成果は何だったと思いますか?

(薬師)1年目は、何をやるか、やらないか、そういう整理を繰り返ししていた気がします。あとは収益の柱をどこにもってきて、収益性のない事業もサステイナブルに続けられる仕組みをつくるかが話題の中心でした。

LGBTQの課題解決のためにそれまでもずっと取り組んできた教育事業がとても大事で、学校での授業実施を行う事業では一定数の成果を出しているけれど、学校からの謝礼は少ないため、今後もそこはやればやるほど赤字になるだろう。では、どこで収益を上げて、収益性の低い事業を実施できるようにするのか?というところで、「いや、あれじゃないか?」「じゃあ、じゃあ」・・・「企業研修か!」と、いろいろやってみた結果、企業研修にたどり着いたのが1年目の最後で、それを形にしていくサポートをそれ以降はいただきました。

 

(Q)企業研修の事業はどうやって作っていったのですか?

(薬師) SVPのみなさんに企業の人事の方にお声がけいただいて、模擬研修をするのでフィードバックをくださいとお願いしました。また、私たちはNEC社会起業塾に選出いただいていたので、初回の研修はNECさまで実施させていただいたのですが、その資料の作り込みもパートナーと一緒にやって、フィードバックいただいて、より良くなるためにはどうしたらいいかを一緒に考えていくという感じでした。

実際に研修の見学に来ていただいたこともありました。2年目は、営業に行く時に同行いただいて、「あの時はもっとああした方がいい」とか「もっと声を大きく」とか、そういうところも教えていただきました。

 

(Q)それが2年目の成果につながった?

(薬師)企業研修が少し形になったのが1年目。2年目で少しずついろんな企業でやらせていただけるようになりましたが、「RAINBOW CROSSING TOKYO」(LGBTQも働きやすい職場づくりに取り組んでいる企業と学生・若者のためのキャリアフォーラム)も、2016年に開催した当時は12社でした。今は「DIVERSITY CAREER FORUM」と名前を変え毎年実施しています。ダイバーシティに取り組む40社近くにご出展いただいていて、こうした企業フォーラムができるようになって、企業との接点をどんどん増やしていき、そこから収益化ができるようになっていきました。どこを収益の柱とし、そしてそれをどう作るかというところに伴走いただいた感じです。

 

(Q)協働2年間を全体として見た時に、一番の成果は何だったでしょうか?

(薬師)つなげていただいたすべての人脈や、機会が価値であり成果だと思っています。Vチームのみなさんが今も理事、アドバイザーで、あの時のたくさんのあーでもない、こーでもないの議論とか、よく分からないけど朝まで飲んだこととか、合宿をしよう!と海で遊んだこととか、そういった歴史の上でいろんなことがあって、3年目以降もずっとつながっているということは、本当に出会いとしてありがたいです。

現在も企業のみなさまともいろいろな接点や機会をいただいていますが、それは最初に、みなさまからの信頼の貯金をいただいたからこそです。ある会社にどうしてもつながりをいただきたいという時に、Vチームの方から他の誰かにお願いをしていただいて、「誰々さんの紹介だったら聞きましょう」ということでお話をさせていただいたこともたくさんあります。そのようなご縁をいただき、1社1社とつながれて今があると感謝しています。

 

 

 

(Q)協働が始まる前の段階で、団体のステージを尋ねましたが、そのステージはどうなりましたか?

(薬師)いつだってアーリーな気がするんです。今もう14年目に入ったんですが、まだアーリーな気がしていて。組織のベースとして変わったのは、2013年はフルタイムの職員がゼロ人だったのですが、2014年の終りにはフルタイムが2人になって私と当時の副代表は給与をいただけるようになって、そこから社員が増えていって、2年の協働が終わりました。それまでは別のアルバイトで夜勤をして、日中にReBitのことをやるというような生活をしていたので、仕事としてこの活動ができるようになったのは、大きな変化でした。



(Q)SVPの協働の価値について、2年が終わった時に感じていたことと、今感じていることで、違うところはありますか?

(薬師)2年で終わった感覚はあまりなくて、3年目も、5年目も6年目も縁で続いていると思っています。Vチームとしての報告や定期ミーティングがなくなっても、ご縁までなくなるわけではないので、知見をいただきたいときにいつでもいただけるという意味で、変わらなかったというところかなと思います。

 

(Q)団体によって取り組む社会課題は違い、その課題をめぐる状況が変わらないこともあれば、大きく変わることもあります。薬師さん、ReBitが取り組む社会課題について、世の中の目線や理解度などの変化をどう感じていますか?

(薬師)LGBTQという言葉の認知度は、当時と今ではだいぶ違って、今では行政調査でも7〜8割とか言葉の認知度があったりしますが、当時は、聞いたことあるかな?ぐらいの人が、研修や授業に行くと1割、2割いるかという感覚でしたね、学校現場でも、行政でも。社会課題としての認知はこの数年で変わりました。特に東京オリンピック・パラリンピックを契機としてだいぶ変わってきたと思います。

2014年当時、全然認知がない中でSVPに選んでいただいたのは、今もすごくありがたいと思っているのですが、認知が変わって社会が大きく変化していく、例えば、2014年にオリンピック憲章に入り、15年に文科省で通達が出て、17年にセクハラ指針に入って、18年に東京都で条例ができて、20年にオリパラがあって、年々状況が大きく変わってきています。

例えばメディアで報道される場合でも、2014年当時はなかなかLGBTQを取り上げてくださるメディアは少なかったのですが、今は日常的にLGBTQに関する報道があります。

そうなると、LGBTQのテーマに取り組む僕らも、意識だけじゃなくて、スキルと、その根底であるコンプライアンスや、下支えとなる収益や、どのようにソーシャルインパクトを生むかという戦略戦術や、全部求められるステージが変わったと思います。だからこそ、組織基盤づくりやコンプライアンス強化についてもさまざまな相談ができたことはとても意味が大きいと思います。

 

(Q)そうした変化の中で、ReBitが貢献できたと思われるところを、教えていただけますか?

(薬師)僕らは主に3軸で取り組んできていて、まずは教育です。

教育の分野において、活動を始めた2009年には「LGBTQの子なんて学校にいない」と言われました。「教えたら子どもたちがゲイになっちゃうんじゃないか。そんな性的な話をさせられない」と言われました。しかし、2015年には文科省から対応配慮するようにと学校に通達が出て、2018年に高校の教科書、2019年に中学校、2020年に小学校、今は半数以上の教科書に載っています。それに貢献していると思います。LGBTQの教育という意味では最大級の団体で、千回を超える研修で15万人ぐらいのみなさまに研修をお届けしました。どのように多様な性について子どもたちに教えるか、学年ごとの教材を制作してその教育効果を測定し、教科書会社と意見交換の場をもたせていただいたり、教科書にLGBTQを掲載する際のアドバイジングをさせていただいたりもしました。

また、キャリア事業では、2013年から始めた中で、企業のみなさまには「LGBTQの就活生なんていない」と言われて、行政の就労支援のみなさまにも「そんなの聞いたことない」と言われたのですが、今ではLGBTQの社員がいないと思っている企業はほとんどないのではないかと思います。職場でLGBTQが直面する困りごとやハラスメントがあるということをデータで可視化して、どういう風にしていけば企業の中で心理的安全が高まるかを研修やコンサルテーションで伴走しながら、いろいろな事例を企業と作れたところが、大きな価値なのかなと思っています。
キャリアコンサルタントという国家資格がありますが、その資格の更新講習として厚生労働大臣指定をいただいていることで、支援者の育成に携わっているのも一つの価値かなと思います。

教育も就労もそうですが、課題が「無い」と言われたところから可視化して、課題が「ある」ことを前提とした体制を作っていく活動だと思います。

次のその挑戦は、福祉事業で、2021年から始めています。LGBTQであること自体は障害ではありませんが、トランスジェンダーでいうと約3人に1人が鬱になるという調査があります。それは職場でのハラスメントや学齢期のいじめなどが要因です。一方で、LGBTQが行政・福祉サービスを利用するときに76%の方が困難やハラスメントを経験し、セーフティーネットであるはずの行政・福祉サービスを安全に利用できないことが、孤独・孤立や自死につながるケースも多いのが現状です。なお、コロナ禍は特に失業・困窮等が加速し、対応に急を要する状況となりました。

こういう状況下で、行政の福祉課や福祉事業者を廻ると、「LGBTQで障害がある人は相談に来てないよ」とまた言われました。しかし、それは困難やハラスメントを恐れ相談ができていないからこそ可視化されていないのであり、私たちのもとにはたくさんのお声が届いていることを伝えたくて、2021年に調査を行い、先ほどの76%のLGBTQが行政・福祉サービスを安全に利用できていないというデータを発表しました。では実際どうしたら安全に使えるのかというモデルを作るために、2021年12月に障害福祉サービスである就労移行を東京で始めました。そうすると1年半でのべ約6,000件の相談が全国から来まして、やはりニーズがあるということで、今年の春に大阪で事業所展開することになっています。

 

(Q)取り組んでいる社会課題に対して、解決という言葉は違うのかもしれませんが、良い方向に向かっていると思いますか?

(薬師)向かいつつあると思います。より良くなる方向に向かっていると思います。
今後のLGBTQのコアの論点になってくるのが、アドボカシーがひとつですね。LGBTQに関する法律ができるか、まさに今、争点になっています。
もうひとつ、LGBTQも自分らしく暮らせる地域が全国に広がるか、各地域の取り組みがふたつ目の課題になると思います。そのためにも人権男女や福祉の計画にLGBTQが記載される行政が増えることは重要です。また、各地で活動するLGBTQの団体をつなげて応援するLGBTQの中間支援組織や機能・仕組みづくりも各地の取り組みの増加には重要です。

さらにもうひとつが、それを支えていく人材の育成だと思っていて、LGBTQの当事者だけががんばるというよりも、例えばメディア、行政、学校、企業等さまざまな分野でアライ(理解者・支援者)がそれぞれ専門知識を持ちながらその組織や地域のなかで、エヴァンジェリストとして取り組みを進めていける人材を作るという3点が論点になると思います。

2020年までは「LGBTQがいます」というLGBTQ可視化や認知の向上が主軸だった。一定認知は向上したからこそ、次はどの地域でも市民として安心して暮らせるよう、法律/条例、地方、地域の人材というところに、大きくフェーズが移っていったのでは。一方で、それが2020年から、2040年までぐらいの戦略だとして、そこで解決しているかというと解決していないと思います。そこからまた違う戦略が見えてくるのではないかと思います。

 

(Q)SVPの協働先に応募を考えている団体に言葉をかけるとしたら、どういう言葉をかけていただけますか?

(薬師)たくさんのつながりやチャンスをいただける機会だと思うので、 応募するのがいいと思いますと、既にいろんなところで言っています。
自分の団体だとSVPに選んでもらえないのではという団体も多いですが、そう思っていた自分たちが選んでもらえたこともあるし、それ以上に、落ちてもそこでつながる接点があるので、それも大事だと思っています。選考プロセスもすごく丁寧で、いいと思っているので、出すことのメリットしかないと思います。

 

(Q)SVPパートナーに対してメッセージをいただけますか。

(薬師)重要な役割として、企業の中で社会課題に取り組み、発信する「イントラプレナー(社内起業家)」は会社を変えると思っています。LGBTQに関して、これだけ企業や行政が変わったのは、企業や行政の中の方々が「これはやった方がいいですよ」と声を挙げていただいているからです。そのひとりひとりのおかげで1社が動いて、その1社が動くから業界が変わるわけじゃないですか。業界が変わるから日本が変わるわけじゃないですか。ですので、ひとりの力ってすごくて、イントラプレナーだからできることはとても大きくて、その人たちとアントレプレナーの接点の場所が、SVPだと思っています。

伴走していただくことに加えて、一緒にその社会課題を協働して解決する仲間だと思っていて、そういうプラットフォームだから面白いと思うし、みなさんの役割は、社会を僕らが変えるのと同じ、もしくはそれ以上に変えていることを知ってほしいと思います。「本業/本業ではない」という分け方は違うと思うし、昼間やフルタイムの仕事があっても寝る間を削ってやってくださることは稀有だと思っていて、そのみなさんが集っていることは宝です。今後もよろしくお願いします。

 

 

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▼認定特定非営利活動法人ReBitについて(https://rebitlgbt.org/)

LGBTQの⼦ども・若者特有の困難解消と、多様性を包摂する社会⾵⼟の醸成を通じ、LGBTQを含めた全ての⼦どもがありのままで⼤⼈になれる社会の実現を⽬指す、認定NPO法⼈(2014年3⽉認可)。

企業・⾏政・学校などで1,500回以上、LGBTQやダイバーシティに関する研修を実施。また、LGBTQの就活⽣/就労者約6,000名のキャリア⽀援や、国内最大級のダイバーシティと就労に関するキャリアフォーラム”DIVERSITY CAREER FORUM”の開催などを行う。

日本初となるLGBTQかつ精神・発達障害がある人たちを主な対象とする障害福祉サービス”ダイバーシティキャリアセンター”を設立。

 

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▼代表/藥師実芳(やくし・みか)氏

認定NPO法人ReBit代表理事/社会福祉士/キャリアコンサルティング技能士2級
1989年、神奈川出身。早稲田大学大学院教育学研究科修了。トランスジェンダー。
20歳でReBitを設立し、LGBTQを含めた全ての子どもがありのままで大人になれる社会を目指し、LGBTQの教育、就労、福祉分野に取り組む。
渋谷区、世田谷区などの自治体で関連分野の検討委員を務める。山形大学、九州大学で非常勤講師に。青少年版国民栄誉賞と言われる「人間力大賞」受賞。世界経済フォーラム(ダボス会議)が選ぶ世界の若手リーダー、グローバル・シェーパーズ・コミュニティ選出。オバマ財団が選ぶアジア・パシフィックのリーダー選出。共著に「LGBTってなんだろう?」「教育とLGBTIをつなぐ」「トランスジェンダーと職場環境ハンドブック」などがある。

 

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▼SVPの協働内容の概要

◆協働期間:2014年~2016年

◆当初の協働計画:

学生団体からNPO法人になった2014年に協働スタート。出張授業や成人式を中心とした活動をしていたものの、事業収益は乏しく、有給職員もいなかった。そのため、セオリーオブチェンジや各事業のミッションの明確化からスタートし、継続的かつ社会的なインパクト創出のために必要な財政基盤の確立を目指す。その手段として新規収益事業(企業研修)の拡大に注力。

◆具体的な実績:

<経営戦略>
・団体のビジョン、事業戦略、事業計画の策定をサポート。
・収益の柱となる新規事業(企業研修)の戦略立案、企業開拓の支援。
・LGBTQ学生向けの就活イベント開催(日本初)に向けた支援。 

<助成金対応>
・各種助成金の獲得を支援。