【20周年企画】 株式会社ローランズ
「ひとりじゃない、と思わせてくれた」
2021年に協働を終えた株式会社ローランズの福寿さんに、協働に至るまでの経緯から、協働の様子について話を伺った。
▼インタビュー(取材:2023年2月21日(火))
(Q)SVPの投資・協働先に応募するきっかけ、理由は何でしたか?
(福寿)きっかけはもともと、SVPの過去協働先団体の代表からのご紹介です。こういう伴走をしてくれるサポートがあると聞いて、調べて、素敵だなと思いました。
ウィズダイバーシティプロジェクトという日本の雇用の常識を変えていくための取り組みがあったので、それをぐっと前に進める一歩を踏み出せないかということで、応募させていただきました。
(Q)応募時点で、ご自分の団体はどういうステージにあると考えていましたか?
(福寿)団体としては約40人の障がい者雇用を行っていて、人数は多かったのですが、バラバラというか、規模は少し大きくなったけれど、「これからどう進めていくと良いの?」という状態だったと思います。
(Q)バラバラという意味は?
(福寿)「人が働きやすい環境はどうやって作るのか?」「長く働いてもらえるためには何が必要なのか?」「組織を作るとは何か?」といったことが分からず、手探りの状態でしたので、もう一歩成長していくには、個人のがんばりだけでは無理が生じてしまう。個人のがんばりで成り立っていた団体だったので、そういう意味でバラバラというか、「人力」で進んでいた状態だったと思います。
(Q)選考は半年がかりですが、選考の過程で印象に残っていることはありますか?
(福寿)何かの選考に参加するのが、会社を作ってから初めての体験でしたので、選考の時に将来のビジョンとか、どうなりたいかを聞かれた時に、わかりやすく言語化して答えられませんでした。ですので、将来どうなりたいか、改めて見つめ直すタイミングになったので、落ちてしまったとしても選考に参加しただけでも意味があったなと結果が出る前に感じていました。
(Q)協働が実際に始まって最初の頃、覚えていることはありますか?
(福寿)私たちは取り組みを4つのカテゴリーで、基盤整備、言語化、事業開発、ウィズダイバーシティプロジェクトに分けました。そう分ける前に、困っていることややりたいことをディスカッションして課題を抽出してみたら、見えていない課題がこんなにあったのか!というのが、最初に感じたことでした。それまで、綱渡りみたいな感じで、よくやってこられたねと自画自賛(笑)しつつ、一方で新しい知識や知恵を入れていくことで、一緒に働いているメンバーが働きやすくなり、成長できる気がする、そんな楽しみなスタートを切らせていただきました。
(Q)「綱渡り」という言葉でしたが、そういう自覚はなかったのですか?
(福寿)目の前のことで一生懸命だったので、その時はあまりなかったですね。
やっと決算書が読めるようになったぐらいのタイミングで、収支計画も立てるのが難しいレベルでした。未来が楽しそうなことだからやってみようでスタートして、結果大丈夫だったね、という感じで進んできていたので、綱渡りしている実感があまりなかった状態でした。
(Q)なるほど。協働1年目の成果は何でしたか?
(福寿)振り返ると、1年目はとにかくパートナーのみなさんに自分たちのことを知ってもらい、パートナーのみなさんのことも知っていく、相互理解の時間だったと思います。もう隠すことがないぐらい丸裸になる感じが最初の1年目でした。私たちのスタート時期はリアルでお会いしながら情報交換して、半年ぐらいでコロナになったのですが、最初にコミュニケーションがあったので、オンラインになっても、ある程度ぶっちゃけて話すことができたと思います。
一番思い出に残っているのは、私たちはミッション・ビジョンをしっかり言語化して定めていなかったので、パートナーの方に入ってもらって、「君たちが実現したい状態は何なの?」「なぜそうなの?」という”なぜ”を掘り下げて、掘り下げていくことをやって、背中の汗がびっしょりになりながら答えたけれど、それでもたどり着かないみたいな・・・。
自分たちの思っていることを言葉にする、言語化の難しさをすごく学びました。
さらに、言語化するのはいいのですが、それを相手に伝える言葉に変換するのがまた難しかったりしました。自分たちが目指したいこと、やるべきことと向き合い、出しきった1年、という感じだと思います。
(Q)続いて、2年目の成果、進んだことを教えていただけますか。
(福寿)2年目は基盤整備が特に進んだと思います。財務の体制がなかったところから、毎月のお金の流れを確認していくフローが1年経ったらできあがっていて、運用しながら学び、身に付けている状態になっていました。社内コミュニケーションのチャットツールや会計やデータのクラウド活用が始まり、ガバナンス体制や人事制度もできました。人が働きやすい環境、次の成長のために組織に必要なことを教えてもらって、実際に運用してみようと走り出し、試用から実運用に入っていったのが2年目でした。
言語化のことも、「誰もが花咲く社会」という表現にたどり着いて、そこからは言語化が楽しくなって、大切な言葉がたくさん生まれ出しました。
(Q)組織の成長についてお話いただきましたが、ウィズダイバーシティプロジェクトはどう進んでいったのですか?
(福寿)1年目はパートナーのみなさんにプロジェクトに関わる制度などを知っていただく期間だったと思います。算定特例制度とは何かとか、ウィズダイバーシティプロジェクトが目指すものは何かを確認するためにも、会社として目指すことが何なのかを前に述べたように整理することから始めました。
ちょうど2年目に入った時に、算定特例制度をLLPとして運用する日本初の事例としてスタートできることになり、小池東京都知事に記者会見いただいたり、国家戦略特区から発表されたりということが一気に重なった時も、表に情報を出す準備ができていなかったのですが、SVPのみなさんに徹夜で(すみませんでした..)手伝ってもらって、なんとか間に合わせたこともありました。この複雑な制度をどう伝えていくのか、スムーズに説明できる状態ではなかったので、わかりやすい伝え方や表現、解説図を用意するために、たくさん壁打ちをしてきたことも思い出です。
(Q)参加企業の数は順調に伸びていったのですか?
(福寿)2020年に2社で雇用促進チームを結成し、行政手続きに時間がかかるので増えるスピードはゆっくりなのですが、現在(2023年2月)、10社で雇用促進チームを結成して合計60名近くを雇用しています。今年はさらに10を越える企業からの参加表明があり、おかげさまで、昨年(2022年)12月の臨時国会で、東京圏に限定されていた従来の制度の縛りがなくなって、全国の企業のみなさんが使えるようになったので、少しでも雇用を促進できる制度を広げるために貢献できたと思うと、よかったと思います。
(Q)応募時点での団体のステージをお尋ねしましたが、2年間で団体のステージは変わったと思いますか?
(福寿)すごく変わったと思います。気合と根性に頼った「人力」で進めていたので、あのままだったらきっと誰かに無理が生じてしまったり、今の主要メンバーの誰かが欠けてしまったりしたのではないかと思います。目指したい理想を追いかけつつ、一緒にやっている仲間たちが安心・安全に働いていけるようにする、その両輪がとても大事だということもわかって、障がい当事者だけでなく一緒に働くすべての人のための働きやすい環境作りに継続して取り組んでいきたいと思っています。
(Q)恐縮ですが、SVPとの協働で一番よかったことは何ですか?
(福寿)「ひとりじゃない」と思わせてくれることです。自分たちの組織のことや、会社の人には強がって言えない悩みなどを打ち明けられる人がいるというのは、すごく心強かったです。社内でもなく社外でもなく、絶妙なポジションで伴走して一緒に悩んでくれる存在は初めてだったので、心が折れそうな時も踏ん張ることができました。
障がい者雇用の分野で活動していると、様々な角度からの意見で、時には否定的なことを言われたりすることもあるのですが、「大丈夫だよ」とそばで伴走してくれたことが心の支えでした。孤独を感じることがほとんどなく、本当に有難かったです。
(Q)団体が取り組む社会課題によって、社会状況は大きく違います。福寿さん、ローランズの場合、協働の前と後、さらに今で、社会の認識や世の中の状況は変わってきていると思いますか?
(福寿)私がローランズを立ち上げたきっかけは、特別支援学校の子どもたち、障がいや難病と向き合う子どもたちの働きたいという夢がもっとかなう社会になったらというところからスタートしていますが、子どもたちの卒業後の就職率も少しずつ上がってきていると思います。
企業には法定雇用制度があり、障がい者雇用が義務付けられていていることで、数は確かに増えているけれども、質が上がらない。それをよそに、障がい者の法定雇用率は上がっていきます。法定雇用の数だけを追いかけて、10人雇用したけれども、10人のテーブルだけが準備されていて仕事がありません、というような現場も見てきました。
(Q)そうした課題に対して、リーダーとして、経営者として、手応えはありますか?
(福寿)ありがたいことに応援してくださる方が増え、一緒に走ってくださる方が増え、期待してくださる方が増え、最初はそれが苦しい時期もあったのですが、そう感じたことさえも今は全部力になっていて、「障がい者の雇用課題は自分が変えていくんだ」というところに、ようやくたどり着くことができ、後ろを振り返らず進むんだという気持ちになれています。その最初に背中を押してくれたのがSVPのみなさんとの協働の2年だったと思います。
当初は「私が社会を変えたいなんて、自信がなくて言葉にできないし、できなかった時のことを考えたら、最初から言わない方がいい」みたいに思ってしまっていましたが、SVPのみなさんに伴走いただきながら、目の前でやりがいを持って一生懸命働く当事者の数を確実に増やしてきたし、障がい者雇用は完全にコストだと思っていた企業の意識が変わる瞬間をたくさん見ることができました。目の前に起こっていることを信じて、自信を持って、仕組みの力で働く幸せを広げていくんだと思っています。
(Q)企業もそういう風に変わっていくのですか?
(福寿)はい、雇用促進チームを結成した企業の担当者が情熱的になったり、事務局に一緒に入ってやりたいという企業が出てきています。
もともと障がい者雇用は、多様な人たちが共に生きる社会を作っていこう、みんなで一緒に働いていこう、という共生の考えから生まれていますが、それがいつしか、やらなければならない、仕方なくやる、という義務感で取り組む状態も発生しています。障がい当事者と接してみると、ちょっと特別な支援が必要なところがあるだけで想像以上に普通と変わらなかったりする。勝手に持ってしまっていた偏見が覆される。接点が増えれば増えるほど、知ることが障がいを無くし、人と人の壁はなくなっていくと思います。
(Q)協働する前と今で、福寿さんの夢が変わったのでしょうか?
(福寿)夢自体は変わっていないですが、やり方は変えるべきだと思いました。
汗をかきながらディスカッションして決めたビジョン・ミッションで、本当に「誰もが花咲く社会」、誰も除外されない社会になったらと思っているのですが、今までのやり方だと目の前の半径5メートルの人にしか届けられない。最初はそれを地道に続けていけたらいいと思っていました。SVPのみなさんとの協働によって、もっと多くの人に届けていけるようにしたい、届けないと!と思うようになったので、社内的な数値インパクトを意識しながら、新しい仕組みが全国に広がるように取り組み方を変えようと思うようになりました。
(Q)夢が大きくなったのでしょうか?
(福寿)そうですね。届けようと思う範囲が大きくなりました。それをやっていく責任があると思うようになりました。
(Q)SVPの協働先に応募を考えている団体に、SVPのことを紹介いただけるとしたら、どういう言葉になりますか?
(福寿)選考に参加するだけでも自分たちの活動と向き合う時間ができ学びがあるので、悩んでいるならまずはエントリーしてみてほしいと思います。自分たちの団体の活動について客観的な意見が聞ける場にもなり、言葉の選びかたや伝え方のブラッシュアップにもなります。他の素晴らしい団体がいる中で協働先として選んでいただけるように、自分たちならではの強みを発見するきっかけにもなるかもしれません。選考期間だけでもたくさんの気付きがありましたので、ぜひトライしてもらいたいと思います。
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▼ローランズについて (https://lorans.jp/)
「花や緑を通じて社会課題に貢献する」を企業理念にフラワーサービスなどを提供するところからスタートしたローランズは、2016年、障がい者によるフラワーサービスの可能性を感じ、一般社団法人ローランズプラスを設立。カフェ、花屋、ブライダル、植栽など多彩な職種があることによって、障がいや難病のスタッフが自分にあった、やりたい仕事を選択できる環境を作り、現在、都内2店舗を含め合計5拠点で従業員60名のうち45名が障がいや難病と向き合うスタッフとなっている。
2019年には東京都国家戦略特区と連携し、「障がい者の共同雇用」開始のため、ウィズダイバーシティ有限責任事業組合を設立。障がい者雇用にハードルを感じる中小企業とチームを組み、新しい雇用創出のあり方を提案している。
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▼代表/福寿満希(ふくじゅみづき)氏
大学時代、教育実習で足を運んだ特別支援学校にて、子どもたちが社会的な壁によって働くことがかなわない、あるいは仕事の選択肢が少ないことを知ったのが活動の原点に。その後、就職した会社でソーシャルビジネスという考え方を知り、23歳で株式会社ローランズを設立。
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▼SVPの協働内容の概要
◆協働期間:2019年~2021年
◆当初の協働計画:
「ローランズが目指すこと」の言語化、事業拡大のための組織基盤強化、管理体制整備、中期戦略策定。さらに、障がい者雇用算定特例適用による中小企業共同雇用の取り組みの実現をサポートし、参画企業拡大、雇用数拡大を目指す。
◆協働の成果と実績:
<事業開発>
・算定特例制度を利用した雇用取り組みをウィズダイバーシティプロジェクト(With Diversity Project)と名付け、本業と並行してサポート。国家戦略特区認定を受け注目されるも法的な制約が多く、参画企業数は当初は思うように伸びなかったが、その後、参画企業数は10社(2023年2月現在)に増え、このモデルの事業協同組合としては最大規模に。
<財務管理、助成金対応>
・財務管理を月次管理できる体制を整備。決算期の変更、事業部別採算管理を導入。助成金の獲得を積極的にサポートし、事業拡大に結び付けた。
<経営戦略>
・協働1年目にコロナ禍になり、ブライダル事業が甚大な影響を受ける中、代わりとなる収益源の開発に取り組む。
<組織体制整備>
・人事評価制度の見直しを支援。合宿によるビジョン策定と共有。
<IT支援>
・Slack導入と活用サポート。
<広報・PR>
・ウィズダイバーシティプロジェクトのウェブサイト制作の支援。